家を建てる資金で悩む方へ。親からの援助を受ける際に知っておきたい税制優遇措置とは
住宅価格が高騰する昨今、親から資金援助を受けて家を建てる人は少なくありません。
援助を受ける際に押さえておきたいのは、贈与税の申告・納付義務です。
本記事で紹介する措置・制度を適用すれば、親からの援助に関して贈与税申告は必要となるものの、2024年以降は最大3,610万円まで非課税となります。
使えるものは積極的に活用し、お得にマイホームを手に入れましょう。
家を建てるときに親の援助を受けてもいいのか
家を建てるときに親から資金援助を受けることは、決して特別なことではありません。
むしろ、一定の世代では珍しくない選択肢といえます。
ただし、資金援助を受ける場合は税務上の手続きが必要です。まずは実態を把握し、正しい手続きを理解する必要があります。
親からの資金援助の実態
一般社団法人不動産流通経営協会の調査によると、住宅購入者の12.5%が親からの資金援助を受けています。
年齢別では、44歳までの人が援助を受けることが多いとの結果が出ました。
援助を受ける資金の額は1,000万円超と回答する人が36.1%に及び、多額の支援を得る人は決して少なくないと分かります。
援助された資金は贈与税の課税対象
親から資金援助を受ける場合、税務上は「贈与」として扱われます。
重要な点として、本記事で紹介する制度を適用することにより贈与税が発生しない場合でも、申告は必要となります。
申告漏れが発覚すると、本来の贈与税に加えて無申告加算税などが課される可能性があるため要注意です。
年間3,610万円まで非課税になる税制優遇制度
家を建てるための資金援助については、贈与税が非課税となる措置のほか、贈与税申告のときに選択することで年度内に多額の贈与があっても一定額まで控除の対象となる制度が用意されています(下記参照)。これらの制度をフルで活用した場合、年間3,610万円まで非課税になります。
A. 住宅取得等資金の贈与の非課税措置の特例
資金提供を受けたうえで一定の性能を満たす住宅を取得した場合、援助してもらった資金につき、最大1,000万円まで非課税となる制度です。税制改正により、2026年末まで延長されました。
B. 相続時精算課税制度
贈与税申告のときに選択することで、相続開始までに贈与を受けた価格が2,500万円に達するまで非課税となる制度です。2024年1月1日以降は、年間110万円の基礎控除額が上乗せされるようになりました。
各制度の活用にあたっては、一定の書類を添付した届出書の提出が必要など適用要件をしっかり確認しておく必要があります。
ここからは、住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税措置から順に詳しい適用要件を確認してみましょう。
A. 住宅取得等資金の贈与の非課税措置の特例とは
住宅取得等資金の贈与の非課税措置の特例とは、親や祖父母などの直系卑属からの住宅購入資金の贈与を受けやすくするための制度です。2024年度の税制改正でも制度が延長され、より環境性能の高い住宅への誘導が強化されました。
[ 非課税措置の概要と限度額 ]
住宅取得等資金贈与の非課税措置では、住宅の種類によって、非課税となる金額が変わります。
💴 非課税限度額(夫婦1人あたり)
・省エネ等住宅
1,000万円まで
・一般住宅
500万円まで
ここで注意したいのは、制度の利用は1回限りである点です。最初の住宅取得で適用すると、住み替え時に再び援助を受けるときは適用できません。
なお、制度は夫婦それぞれ適用できるため、合計で最大2,000万円まで利用できます。都心部を中心に住宅価格が高騰する昨今では、家族で検討する余地があるでしょう。
[ 特例の要件 ]
住宅取得等資金贈与の非課税措置を受けるためには、下記の要件を満たす必要があります。
- 贈与を受ける人に関する要件
- 住宅自体に関する要件
- 取得時期と居住に関する要件
1つでも要件を満たさないと特例が受けられないため、事前に十分な確認が必要です。
A-1. 贈与を受ける人に関する要件
非課税措置を受けるためには、贈与を受ける人が以下の要件をすべて満たしている必要があります。とくに所得要件は、制度改正の影響を受けやすい部分であるため、今後の動向に注意が必要です。
▼ 基本的な要件
- 贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上であること
- 贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下であること
※床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は1,000万円以下 - 贈与者の直系卑属(子や孫)であること
- 贈与を受けた時点で日本国内に住所を有していること
▼ その他の要件
- 過去にこの非課税措置を利用していないこと
- 配偶者やその他の親族などから住宅を取得する場合でないこと
- 親族との請負契約による新築や増改築でないこと
A-2. 住宅自体に関する要件
非課税措置の対象となる住宅には、広さや用途、性能などについて細かな要件が定められています。住宅の要件しだいで非課税の限度額が変わるため、ここで紹介する要件は重要です。まずは、基本的な要件から確認しましょう。
▼ 基本的な要件
- 床面積が40㎡以上240㎡以下
- 床面積の2分の1以上が居住用であること
- 日本国内に所在する住宅であること
次に、省エネ等住宅(1,000万円控除)の要件を確認しましょう。ここで表記する省エネ等基準を満たさない住宅については、一般住宅(500万円控除)扱いとなる点に要注意です。また、新築住宅より中古住宅の方が要件が緩く設定されている点にも要注目で、購入する住宅の検討材料となります。
▼ 省エネ等住宅(1,000万円控除)の要件
取得する住宅 | 省エネルギー性能 | その他の性能 |
新築住宅 建築後未使用の住宅 | 断熱性能等級5以上& 一次エネルギー消費量等級6以上 | 耐震等級2以上 or 免震住宅 高齢者等配慮等級3以上 |
中古住宅 住宅の増改築 | 断熱性能等級4以上& 一次エネルギー消費量等級4以上 |
A-3. 取得時期と居住に関する要件
非課税措置の適用を受けるためには、贈与を受けてから一定期間内に住宅を取得し、実際に居住する必要があります。この期間制限を守れない場合、特例が受けられなくなるので、しっかりプランニングする必要があります。
▼ 取得時期の要件
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与を受けた住宅取得等資金の金額を充てて住宅を取得すること
- 新築の場合:少なくとも棟上げまで完了していること
- 購入の場合:引渡しまで完了していること
▼ 居住要件
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住を開始すること
- または、同日後遅滞なく居住することが確実と見込まれること
- 贈与を受けた年の翌年12月31日までに居住していない場合は修正申告が必要
申告手続きと必要書類
非課税措置を受けるためには、定められた期間内に必要書類を添えて贈与税の申告を行う必要があります。申告漏れや書類の不備があると特例が受けられないため、慎重に準備しましょう。
▼ 申告期限
贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日まで
▼ 必要書類一覧
✅ 贈与税の申告書
※申告書にマイナンバーを記載した場合、マイナンバーカード等の提示または写の添付が必要。
✅ 贈与を受けた人(受贈者)の戸籍謄本
✅ 受贈者の源泉徴収票等の所得証明書類
✅ 売買契約書または工事請負契約書の写し
✅ 登記事項証明書
※登記未完了の場合は補完書類
✅ 住宅性能証明書
✅ 建設住宅性能評価書
✅ その他の性能証明書類
B. 相続時精算課税制度とメリット
親に援助してもらった不動産購入資金の贈与税申告では、ここまで紹介した非課税措置を適用できる場合、相続時精算課税制度も選択できます。
この制度は、贈与時に2,500万円の特別控除を受けることができるのが最大のメリットです。ただし、制度適用後の贈与は贈与税・相続税の課税対象になる点、一度選択すると「暦年課税(基礎控除110万円)」に戻すことができない点、小規模住宅地等の特例が使えなくなる点などには注意が必要です。
本制度を利用する上でのポイントは、贈与税や相続税の課税のしくみです。
制度を選択したときの控除額
相続時精算課税制度の控除額は、以下の2つで構成されます。
💴 相続時精算課税制度の控除額
・特別控除
2,500万円
・基礎控除(毎年1/1-12/31分)
110万円
これにより、制度適用後の最初の贈与では基礎控除+特別控除=2,610万円まで非課税、翌年以降毎年110万円まで非課税となります。
相続時精算課税制度の適用要件
相続時精算課税制度の適用要件は、贈与をした年の1月1日において60歳以上の直系尊属(父母や祖父母)から贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の直系卑属(子や孫)への贈与です。贈与の種類や、贈与した資金の用途などは問いません。住宅取得資金の贈与について非課税措置を受けられるのであれば、本制度も原則として適用できます。
制度を選択するときの注意点
相続時精算課税制度で注意したいのは、制度適用後の贈与は贈与税・相続税の課税対象になる点です。相続開始時までの通算で大きな非課税枠を設ける代わりに、制度を利用して親から子・孫へ贈与した価格は、贈与した親が亡くなったときに相続税を課税して「精算する」という考え方なのです。とはいえ、生前に贈与税の課税があった場合、相続税の申告の際は税額から控除することが認められています。
まとめ
住宅の性能が向上し、価格も上昇する昨今「自己資金とローンだけだと住みたい家が建てられない」と悩んでいる人が多いのではないでしょうか。親が提供してくれる住宅購入資金は贈与税の課税対象になりますが、年間3,610万円までなら援助を受けても課税されないしくみが整っています。
それぞれの制度の要件を確認し、贈与税の申告についても押さえつつ、活用できるものはフルで活用しましょう。
[ コラム協力者 ]
株式会社シビルブレイン 石倉直人
税理士 前岡 照紀
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