サンエーの人 vol.2|自分が住むなら、と思いながら建てる。ー 大工・亀渕寛也
全国の手仕事の現場を撮影・取材している、フォトグラファー・ライターの小黒恵太朗です。

京都で注文住宅を手がけるサンエーが、どのような想いを込めて家づくりに向き合っているのか…。つくり手の横顔を知ることは、より豊かな家づくりへの第一歩になると信じています。
サンエーの家づくりをより身近に感じていただけるような、そんな温度のあるコラムをお届けします。
第2回にご登場いただくのは、大工の亀渕寛也さん。
同業者も認める一流の技術と、仲間からの厚い信頼。今年2月からサンエーの現場を支える新たな力となった亀渕さんに、仕事への向き合い方や、ものづくりへの想いを伺いました。
父の背中を見て、大工の道へ
京都生まれの亀渕さんは、大工だった父親の背中を見て育ち、18歳でこの道に入りました。幼い頃から現場を手伝い、道具の音や木の香りが日常にある環境で過ごしてきたそうです。
進路を考える時期になっても、迷いはそれほどありませんでした。
「大学に行くか、仕事をするかを選ぶ時に、まあ大工になろうかなって」
言葉にすればあっさりとした決断のようにも聞こえますが、その背景には、幼い頃から親しんできた職人の道へと歩み出す、確かな覚悟がありました。父親の下で「子方」として修業を積み、26歳で独立。新築やリフォーム、マンションの内装工事など、さまざまな現場でキャリアを築いてきました。

サンエーとの出会いは、縁が縁を呼んだ偶然からでした。以前から面識のあったサンエーの現場監督・廣瀨さんを介して仕事を受けるようになり、2026年2月、サンエーの正式なメンバーとして加わることになりました。
20年以上の歳月を、現場の最前線で刻んできた亀渕さん。陽が高いうちは現場で汗を流す……。それが当たり前の日常でした。だからこそ、日中に事務所の机で図面と向き合う時間は、入社当初、どこか不思議な感覚だったといいます。
「一人親方だった頃は、図面を読み込んだり準備したりするのは、現場から帰って夜に家でする作業でした。そんな明るい時間に事務所で座っていていいのか、もっと動くべきじゃないのかって、どこか落ち着かないモヤモヤがあって。会社にも『僕、もっと現場で働いた方が良いんじゃないですか』って確認したくらいで(笑)」

自分の中にある「大工のリズム」と、新しい役割との間で揺れた時期。そんな戸惑いを「やりがい」へと変えてくれたのは、同じ職人を支えたいという思いでした。
「現場で働く大工が迷ったとき、同じ職人の目線で図面を見れば、現場監督とはまた違う角度から力になれるはず。こうして図面と向き合うことも、現場を円滑に回すための大事な仕事なんだと、今では自然と思えるようになりました」
サンエーの仕事を通じて感じることを尋ねると、亀渕さんは「チームワークの良さ」を口にしました。
「みんなが、次に現場に入る人のことや、お客さんのことを考えて仕事をしている。自分さえ良ければいいという人がいない。それはサンエーの大きな強みだと思います」

「これでええやん」を、自分に許さない
それでは、亀渕さんの強みは何ですか?そう尋ねると、亀渕さんは少し考えてから「自分より上の人なんて、たくさんいるからなあ……」と首を傾げました。それは決して、謙遜して出た言葉ではないようです。話を続けるうちに、その姿勢そのものが、亀渕さんの仕事の核になっていることが見えてきました。

自分に正直であること、そして丁寧であり続けること。亀渕さんがこだわっているのは、極めてシンプルな、けれど妥協のない基準です。
「もし自分が住むんやったら、どう思うだろう?その考えを常に持って仕事をしています。住んだ時に『うわ、こんなんなってるやん……』ってがっかりされるのは、誰だって嫌でしょ。そう考えると、自然とやるべきことが見えてくるんです」
三谷社長も、「亀渕さんの現場は、とにかく綺麗」と太鼓判。そしてその姿勢は、共に働く仲間へも向けられます。
「もし仲間が不安そうに、『これでええかな?』って聞いてきたら、見に行くまでもなく『やり直して』って言います。そう聞いてくる時点で、きっと自分の中では100%じゃないって分かっている証拠だから。自信を持って、お客様に届けられるものをつくりたいんです」

一方で、亀渕さんは自分の「波」にも正直です。
「今日はあかんわっていう日もあるんです。そういう時に無理して木を触ったら、切り間違えたりして後悔する。そういう日は潔く休み、他の作業に切り替えるのも、ひとつの技術かなと思います」
焦って手を動かすよりも、質の高い仕事を届けるために自分を律する。技術と合わせ、その判断を、これまで現場で磨いてきたのです。
チームでつくる、最高の一軒
現場で自分と向き合い、細かな調整を繰り返す毎日。その原動力は、家が完成し、鍵を渡す「引き渡し」の瞬間にあると話します。
「最後にお客さんが喜んでくれている姿を見るのが、やっぱり一番嬉しいですよね。綺麗にしてくれてありがとうって言われると、ちゃんとこだわってよかったな、って、報われた気持ちになるんです」
もちろん仕事である以上、効率や数字も無視はできません。「お客さんのために」と動くほど、手間も時間もかかり、時には自分を追い込むことにもなります。
「それでもお金のために動くのと、お客さんが喜ぶやろなと思って動くのとでは、やっぱり仕上がりが変わると思うんです。喜んでくれる姿が見たい。結局、そこがすべてなんですよね」
手間をかけることは、言い換えれば「心を寄せる」ということ。亀渕さんのつくる家には、そんな目には見えない「温度」が宿っています。

取材の最後には、亀渕さんの大工としての目標を聞いてみました。
「僕の仕事に、最高到達点はないと思っているんですよ。何歳になっても学べることはあるし、若い子から教わることだってある。日々、鍛錬ですね」
今でも、思い通りに綺麗に仕上がった時は、一人で感激して写真を撮りたくなるという亀渕さん。「まだまだ足らんことは、いっぱいありますよ」と笑うその瞳は、住む人の笑顔を真っ直ぐに見据えているようでした。
